〜紫吹淳ストレートプレイ初主演〜
ロマンチックコメディ『グッバイ、チャーリー』
作:ジョージ・アクセルロッド/訳:米村あきら/台本・演出:堤泰之

こちらは二幕のストーリーです。一幕とおなじくNELのいーかげんな観劇記憶を元に書きおこしているものです。くどいようですが実際の舞台はもっと面白かったのです。
記憶がこころもとないというだけでなく、特に後半のチャーリーとジョージのシーンは文にするのも絵にするのも難しいところでした。あくまでも「NELの目にはこう見えた」ということで、ご了承のうえ読んでいただければと思います。

***二幕***
翌日、昼過ぎにジョージがチャーリーの為の買い物をしてやってくる。
が、本人は「美容院に行く」と書き置きを残していなくなっている。ジョージが大慌てで美容院に電話すると、チャーリーはサウナの中で楽しそう。

同じ美容院のマッサージルームでは、ラスティ・メイヤリングとフラニイ・ズイマーマンが並んで足ツボマッサージを受けながら、チャーリーの話題で丁々発止。
いまやスキャンダルの渦中にあるラスティに嫌味を言うフラニイ。じつはフラニイ自身もチャーリーとつきあいがあり、それを知っていたラスティは嫌味を言い返す。
そこにピンクのバスローブ姿のチャーリーが現れるが、勿論他人でしかない。二人の話を聞いて面白がるチャーリー。おもわず横から口を出しそうになるが、女二人はなにも気付かない。
さらにジェニファーがやってきて、チャーリーは席を立つ。
不審がるラスティとフラニイに、ジェニファーが「あの人はソレル未亡人」と教えると二人は飛び上がって彼女の後を追う。

喫茶室で青汁をすすりながら火花を散らす3人。
本物の女の仕種を真似ながら(胸の大きさなども見比べながら)「未亡人」としての芝居をはじめるチャーリー。

チャーリーは、ラスティとフラニイに自分のこれからの生活を相談する。
夫を亡くして無一文…なんでもいいから仕事を紹介してほしいと言ってみるが、ふたりは冷たい。では『チャーリー・ソレル基金』を作って彼のお友達だった人達に寄付してもらうというのはどうだろう。
「その恩恵に浴するのは貴女なんでしょ?」
「他にいる?」二人の夫人は呆れ顔。当然ながら賛成してもらえないようだ。
それなら、やっぱり出版するわ!
「何を出版なさるの?」
「チャーリーの、秘密の日記!」未亡人は意気揚々と去って行く。

同じ日の午後、チャーリーの部屋ではジョージとジェニファーが話している。
週末デートして父親に会ってほしいというジェニファーに、行きたくないジョージ。彼女の父親は大富豪だが、ジョージはそれに釣られて結婚したくはないのだ。ジェニファーは「私達が暮らせるだけのお金をパパに貰うわ」などと言ってジョージを怒らせる。
さらに彼氏とチャーリー未亡人との仲を疑うジェニファーは、ジョージにしつこく迫り「あの人食い女に食われないようにしてあげる!」と強引にキス。
そこにチャーリーが帰ってくる。ジョージとジェニファーが絡み合っているのを見て驚くが、こっちも未亡人とは思えないハデハデな恰好に沢山のお買い物。
ジェニファーはキレて飛び出して行く。

腹を立てるチャーリーだが、ジョージもチャーリーの言動に呆れぎみ。
帰りが遅かった理由を聞くと「ショッピング」。どうやって帰ってきたかと言えば「イイ男が車に乗せてくれた」。買い物の支払いは「もちろんカードよ!」
確かに税金を滞納してるのは君であって僕じゃない!とジョージは呆れて出て行こうとする。が、チャーリーはジョージをひきとめ『チャーリー・ソレル基金』のことを話す。ハリウッドの夫人たちは喜んで巨額の寄付をしてくれるだろうと。
「ギャングとつきあうのは御免だ!」と叫ぶジョージ。大喧嘩のすえ、ジョージはジェニファーと結婚すると宣言しトランクを持って出て行く。
ジョージ
「ぼくはもう知らないからな!どこでくたばろうと勝手にしろ!!」
チャーリー
「ジョージ待てったら!! ……… くたばれだって?
 ………………… もう、くたばったよ。」

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同じ日の夜、ひとりデスクでタイプライターに向かい「秘密の日記」を執筆中のチャーリー。
ラスティが訪ねてくる。チャーリーの日記を出版させない為にお金を払おうというのだ。メイヤリング夫人という肩書きを苦労して手に入れ、来月で36歳(本当は38歳!)になろうとしている彼女にとって、再びスキャンダルになる事は身の破滅を意味する。
彼女とじっくり話し合ううちに、チャーリーの中には今までになかった気持ちが生まれる。
ラスティ
「貴女だって覚えがあるでしょ? チャーリーの後を車でつけたり、かかってこない電話の前で一晩中タバコをふかして気がおかしくなりそうになったり…」
チャーリー
「ラスティあなた、そんなに苦しんだの…?」
ラスティ
「そうよ。驚いたの?」
ラスティは、チャーリーが「愛している」と言ってくれたらメイヤリングとも別れるつもりだった、と言う。チャーリーにとっては信じられない事ばかりだが、すべて本当の事なのだ。女は、男が思っていたよりも純情で孤独だった。

さらにメイヤリングが訪ねてくる。夫とうまくいっていないラスティは慌てて隠れる。
チャーリーはメイヤリングに映画の台本を売り付けるつもりで呼んだのだが、メイヤリングはそんな物より未亡人を愛人にしたい魂胆だ。不愉快に思うチャーリー、でも何故か殴る気にはならない。
メイヤリングは、自分は妻に愛されていないと言う。チャーリーは思わず彼を励まし、慰める。
隠れて聞いていたラスティが出てきて夫を責める。また喧嘩になりそうだが、本当は二人とも元の鞘に収まりたいのだ…と知ったチャーリーは、ふたりに、マスコミのカメラの前で堂々と仲の良い夫婦を演じることを提案し、ふたりは腕を組んで出て行く。

**********

ふたりと入れ代わるように、出ていったはずのジョージがトランクを持って戻ってくる。
さっきの喧嘩では、お互いにひどく傷つけあってしまった…言い過ぎた言葉を取り消して、ふたりは仲直り。
ところでジェニファーは結局ジョージに愛想を尽かして帰ってしまったらしい。自分のせいだ!と謝るチャーリー。だが元々ジョージは本気でジェニファーを愛していたわけでもない。
チャーリー
「こんどはあたしが聞いてあげる番。
 このヒザに頭のっけてもいいよ?」
ジョージ
「ママ・チャーリーかぁ」
チャーリー
「やな奴!こんなママいないでしょ!」
ジョージ
「ねえさんかな」
チャーリー
「妹!」
チャーリーは、ラスティとメイヤリングを仲直りさせた事を話す。そして、いまは昔の女たらしだった自分が憎い…と。

ジョージは、素直になったチャーリーに戸惑いながらも、彼女を本当に美しく優しい女として認める。
チャーリーもジョージを心から愛している。
彼に愛されたいという気持が、女性としてのチャーリーを一層輝かせているようだ。が、ジョージはまぶしそうにはぐらかす。
ジョージ
「残念だなぁ。君がチャーリーでなかったら…他の誰かだったら、喜んで結婚するのにな」
チャーリー
「他の、誰かだったら…?」

チャーリーは遂に「あなたを、愛しているの」と告白する。
ジョージは「むりだ。君だけは、そんな風には見られない」と答え、これからも出来ないだろうと言う。そして別々に眠るため、夜具を探しに出て行く。

一人残されたチャーリーは、ソファに倒れるように腰をおろす。
すべて解った。時間はかかったけれど、すべてを理解できた。
神は完璧な罰をお与えになったのだ。

でも、まだ、終わりじゃない。チャーリーは立ち上がり、天の神に向かって叫ぶ。
次にどうなるか、アナタにだってわかっていないんでしょう!?
あたしはイチかバチかに全てを賭けるたちなの。
「あたしの相手はアナタじゃない、ひとりの男!! いまあたし達に必要なのは一つの奇跡。…でもそれを与えることができるのは…アナタだけです!」

チャーリーはトレンチコートを羽織り、ドアを開ける。ハイヒールを脱ぐ。

チャーリーのシルエットが窓に映り、嵐の海に落ちていく。

ジョージが寝室から毛布を持って出てくる。チャーリーが居ない。
ドアが開いているのを見、ハイヒールを拾いあげて、海に向かって叫ぶ。
「チャーリーーーーーッ!!」
その声は嵐にかき消される。

************

晴れた日。
チャーリーの部屋で元マネージャのアーヴィングがビリヤード台に向かっている。
ジョージはまだ遺品を片付けている。アーヴィングが話し掛けてもボーッとして元気がない。いま倉庫から出してきたのは、まだ包装も解いていない新しい椅子。
アーヴィングは、俳優志望の若い男が来るから会ってやってくれ、とジョージに言い、またパーティに出席するために帰っていく。
「あまり落ち込むなよ。死んだ人間は帰ってこないんだから」

なおもジョージがボーとしていると、若い女性がドアのベルを鳴らす。
「あの…伺うのが遅すぎたかもしれませんけれども、ミスター・チャーリー・ソレルの記念品を作るお仕事でもございませんでしょうか?」
ジョージは言葉を失う。彼女の顔が女性のチャーリーそっくりだからだ。
「…失礼、彼の書類を整理していたもので、時間の感覚が…なくなったようで……」
若い女性はオードリー・モリスンと名乗り、女優志望だという。
(アーヴィングは男だと言っていたが?)
生前のチャーリーにスタジオで一度会ったことがあり「とてもシックな方でしたわ。だからここに伺う気になったんです」とのこと。
(チャーリーが、シックな男だって?!?)

チャーリーの手紙にはこう書いてあった。

「親愛なるジョージ
  この娘はオードリー。
  俺には勿体ない、まさに君が求めていた娘だよ!
  逃すなかれ。
                   チャーリー」

ジョージは飛び上がってオードリーに駆け寄る。眼鏡を取った顔はますますチャーリーにそっくりだが、確かに別人だ(アフロディーテの綴りも正確に言えるし「カラマーゾフの兄弟」が愛読書だなんてチャーリーでは有り得ない)。
ジョージの興奮が理解できないオードリーだが、でも、彼女もなんとなく「何かが起こりそうな気はする」という。
いや、いいんだ、これでいいんだ、いつかゆっくり説明してあげよう。
ジョージは、梱包を解いてぴかぴかの赤い椅子にオードリーを座らせる。
そして天に向かってふたりでグラスを挙げる。チャーリーは、ぼくらにこう言ってもらうのを願っているに違いない。
「ありがとう!! そして、さようなら、チャーリー!」

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2005/05/07 Text&Cut by NEL