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〜ミュージカル〜
『ボーイ・フロム・オズ』
-THE BOY FROM OZ-
演出/フィリップ・マッキンリー 
振付/ジョーイ・マクニーリ

STORY >> 1幕 >

暗い舞台の中央には一台のグランドピアノ。
黒いタキシードを着たディー・アンソニーが登場し、これから始まる物語の主人公を紹介する。それは60年代のアメリカ、ショウビズ界を駆け抜けた一人のエンターティナー『ピーター・アレン』。

舞台中央奥からピーターが登場してピアノの前に座り、スポットが当たる。
彼は静かに弾き語りをはじめる。
『この俺の別の顔』…いままでの自分か、これからの自分か。
歌が終わると、小さな少年が現れてタップを踏みはじめる。キメでピーターと目を合わせ「ヘイ!!」舞台は一気に明るいムードに切り替わる。
そう、この少年は子供時代のピーター自身。
彼はオーストラリアの田舎町テンターフィールドに生まれた、どこにでもいる普通の子供…いや、どの町にも一人くらいはいるような「末おそろしいガキ」だった。
鞍作りの職に安住している祖父にまとわりついて、ハリウッドスターを真似て踊るリトルピーター。彼は祖父とは違い、もっとどこか、違う場所に行きたいんだ。

彼は10才かそこらで町のパブで歌とピアノとダンスを披露。
『僕の名前にライトを』リトルピーターのワンマンショーだ。はじめて30シリングのお金を稼ぐ。喜ぶ母マリオンに「映画につれてってあげる!」と誇らし気なピーター。だがその硬貨はアルコール中毒の父親に奪いとられる。
大人のピーターが場面を遮る。「こんなところは見せたくないんですよ。いきなりクライマックスに飛んでもいいですか?」
ピーターがシャツを脱ぐと下はアロハシャツ。

同じアロハを着た14才のヤングピーターが登場する。
いつまでもこんな田舎町にいられない!貯金を引き出し書き置きを残して、テンターフィールドを後にするヤングピーター&大人のピーター。意気揚々とタップダンスを踊るふたり。行く先はサーファーズパラダイス!
そこでギター弾きで歌も歌えるクリスという相棒に出会い「アレン・ブラザーズ」を結成すると、ホテルの仕事などを手始めに人気はうなぎのぼり。
18才でテレビの音楽番組のレギュラーになり、
『ラブ・クレイジー』なパフォーマンスを見せる。
シドニーで一番の人気者となったアレン・ブラザーズだが、やがてピーターは「やっちまった」。有力なプロデューサーとベッドインし、そのことを喋りまくってしまったのだ。(この頃から立派なホモだったと思われる…)はじめての挫折。

ていよく海外追放されたアレン・ブラザーズが香港のホテルで『ワルツィング・マチルダ』中国語バージョンなど演奏していると、そこに派手な中年女性が現れる。酔っぱらい悪態をついて去ろうとする彼女をピーターはひきとめる。「ジュディ・ガーランド!!」
客が聞きたがっているから!と、ピーターは無理矢理ジュディに1曲歌わせる。
『夢だけでいい』最初は歌詞も思い出せずピーターの伴奏に頼って歌うジュディだが、やがて声に力がこもり、大スターの風格を取戻す。歌が終わると客は大喝采。

機転のきくピーターをすっかり気にいったジュディは、彼を自分のステージの前座として使うことを決め、新婚の夫とアレン・ブラザーズとをひきつれてニューヨークへ戻る。『年上の女』を歌いながら。

ニューヨークではジュディの娘・ライザが待っていた。(長い黒髪にピンクのヘアバンド。白黒のセーターに黒の膝丈スカート、ぺったんこの靴にピンクのレッグウォーマー。やぼったい服装だけどりかさんなのでかわいい……^^)
ひとめで惹かれあうピーターとライザ。
「あなたが、ママの言ってたオーストリアの人?」
「オーストラリアだよ。トラップ大佐でも出てくると思ったかい?ラ〜ラ〜ラララ〜サウンドオブミュ〜ジ〜ック?」
「あははは!ママならそれもありだわ」
だがピーターのほうはジュディに娘がいるとは聞かされていなかった。ちょっぴり傷つくライザ。ピーターは「目がおっきい」とか誉めてみるがライザは「顔にくっついてる物ぜんぶおっきいの、あたし!」と逆におかんむり。
そこに母親が「ライザ!早くリムジンを手配してちょうだい!」とやってくる。ピーターは「この子にそんな事をさせるな!」と怒鳴り返す。呆れて立ち去るジュディ。
ピーターはライザを「きみは特別な女の子だ」と励まし、歌いかける。
『出来ることはせいぜい』♪あの月とニューヨークの間に迷い込んだら、出来ることは、恋に落ちることくらい…(これが日本では『ニューヨーク・シティ・セレナーデ』として知られている、ピーター・アレン最大のヒット曲です)
そんなに簡単に恋に落ちるなんて、映画の中か夢の中くらいよ。だが、手をとりあい踊り歌ううちに、すっかりライザも恋の虜になっているのだった。

ピーターは母マリオンに報告する。家族みたいなものなんだと。
マリオンは「そりゃあ、アメリカで仕事するなら本物のアメリカ人の家族に囲まれていたほうが、いいかしらね」と複雑な表情。

次のシーンはライザの部屋。スターとして名を売りつつあるライザは自分のコンサートを控え、母ジュディと楽しくトランプしている。(同じ髪型にピンクのカーディガン、白に水玉?のインナー、赤いサブリナパンツ、ピンクのルームシューズ)「コンサート絶対来てよ?」「だめよアタシのほうが目立っちゃうもの(笑)」カードでズルしただのしてないだの、笑いあうふたり。微笑ましい母子の風景だ。
そこにピーターが勝手知ったる他人の家でストロベリー・ダイキリを作って運んでくる。ライザは感動して彼の唇にキッス。ジュディは「やけに甘ったるいわね」と顔をしかめる。
(ソファで膝を抱えるライザはとてもちっちゃく見え、ピーターの胸にすっぽり入ってしまう感じです)
アレンブラザーズの方も順調に単独での仕事が決まり、ライザはますます上機嫌。ジュディはますます不機嫌。そこにピーターが「あんたも一度ジュディ・ガーランドの前座をやってみればいい」などと言ったことから、ジュディのヒステリーが爆発する。
「あたしの客が観たいのはスターなのよ!あたしは自分の血と肉を客に与えているわ。あんたは何も与えちゃいないじゃないの!!」攻撃はライザにも及ぶ。「あんたもよ!スターの座をあたしから奪おうっていうんでしょ!」
『高望みは禁物』と歌うジュディ。怒りと悔しさと娘への愛と憎しみと欲望と失望と…。それを見るライザはピーターに身を預け、黙って耐えている。

ジュディが言うだけ言って出ていった後、ライザはカードとグラスを片付けながら「私はあの母親の娘よ。怖くないの?」とピーターに尋ねる。
『救い出して』…どこでもいいから別の場所に行きたい…いままでの自分の時間を取戻したい…とライザはピーターに懇願する。

男としてすべきことは?
ピーターはライザとの結婚を決意する。
ジュディはピーターがゲイであることを理解しており、娘を不幸にされたくないと考えている。が「俺はあんたと結婚するんじゃない、あの子と結婚するんだ」とはねつけるピーター。
ライザと結婚すればアメリカ永住許可証も取れるしレコードも出せるかも…と浮かれる息子にマリオンは、「それは良いけれど、本当に愛しているの?」と尋ねる。
「もちろん愛してるさ!」
「そう。愛しているなら、それが一番大事なんだからね?」

だか結婚生活はうまくいかなかった。
ライザは映画の撮影のためニューヨークを離れ、ハリウッドへ。いっぽうピーターはジュディの前座を続けるものの、ジュディ自身のトラブルもあり、ハリウッドへ行けば「ライザの夫」扱いされ、単独での仕事もナシ。
煮詰まったピーターがニューヨークのマンションで
『コンチネンタル・アメリカン』乱交パーティを開いている真っ最中に、妻のライザが帰ってきてしまう。(髪は黒のショート。白い毛皮のロングコートに旅行鞄。中の服は薄紫のニットのワンピース)
「一体なんのざま!?」怒り狂うライザに、ピーターも不満をぶちまける。
「わたし、これでも必死なの。いい奥さんの手本もなかったし…」なんとか上手くやっていきたいライザ、「そうだな、もう喧嘩はやめよう」すべて冗談で済ませようとするピーター。ライザがパーティでピーターと絡み合っていた男の名を尋ねると、ピーターは知らないとごまかす。「覚えているのはお前の名前だけさ」ライザを抱きしめようとするが、彼女はその腕をやんわりと押し退けて去って行く。

二人の努力は空しかった。
ピーターを置き去りに、ライザはスターダムを駆け登ってゆく。
『音楽を聴くのが大好き』音楽さえあれば私はごきげんなの。朝から晩まで音楽漬けなの、でもふりかえればそこには誰もいない…。もっとも、どんな男も音楽ほど愛しちゃいなかったわ、私には音楽さえあれば、それでいいの!!
赤いラメのミニドレスで激しく歌い踊るライザ。

ショウのリハーサル現場にピーターがやってきて、ライザとふたりだけで話をしたいという。ライザは「ここの人達は家族みたいなものだから」と促す。
「きみの姉さんから連絡があった。ジュディが…」
(ライザに姉はいないので「きみの妹」の間違いだと思われます)
「…また?今度は何やらかしたのかしら」
「けさ、亡くなった。」
「うっそ!ママが死ぬわけ…… ママが………」
狂乱するライザをピーターは抱きしめようとするが、彼女は彼の腕を拒み、ひとりにしてほしいと去ってゆく。

ジュディの死因は「不注意による薬物の大量摂取」。だが薬物を注意して大量摂取する人間なんているものか? ピーターは「すばらしい悪夢」のようだったジュディ・ガーランドの為に、ひとりピアノに向かう。
『静かに(Quiet Please, There's a lady on stage)』♪両手あわせ祈ろう、彼女に歌が届くように…
舞台奥の高いところに白い服のジュディが現れ、共に歌いはじめる。陰コーラスが加わり、手拍子が沸き起こり、大スターへの鎮魂歌は華やかに盛り上がる。
突然サイレンの音が響く。現実を語るピーター(ジュディの葬儀の夜、彼女の死を悼むゲイたちの溜り場に警察の手が入り暴動になった事)。「その夜から、なにかが変わってしまったのです」

部屋でピアノに向かうピーターに、ライザが別れを告げに来る。(小さなラメのバッグを持ち、紫のパンタロンスーツ。ノースリーブの上半身、背中は大きくスリットが入っていてセクシー)
「出て行くわ」
「そう。じゃまた後で」
「ちがうの。出て行くの。永遠に。」
ピーターはとっても良い人で、兄弟みたいな人。でも私は愛されたいの、だって女だもの。
そして彼は彼女と正面から向き合うことがどうしてもできない。
「間違いだったよ」
「…そう」
「髪さ! 切っちまうなんて。…でも、すぐ伸びるか」
「…もう伸ばさないわ。」
『別れるものなら』愛しているうちにさよならを言いたいの。
ライザは去っていく。

追い討ちをかけるように、コンビの片割れクリスも「出ていくよ」と告げる。
「どうして?兄弟みたいになりすぎたからか?」冗談のつもりで言うが、クリスは「もうやっていけない」と去って行く。
みんな「ピーター、愛しているよ」と言いながら、去って行くのだ。

すべてに行き詰まったピーターを迎えてくれるのは、オーストラリアの故郷と母親だけだった。落ち込む息子に、マリオンは「じゃあ帰ってきて普通に暮らせば?」というがそれはピーター・アレンの死刑宣告に等しい。
「じゃあアメリカに戻ってみんなを見返してやれば?」
「ああ、そうするとも!!」
『ここいら辺りの男とは』俺は格が違うんだ! どんな事をしてでも成功するぞ、二度とオーストラリアなんかに戻ってくるものか!! 
悔しさを糧に野心を燃やすピーター。
ピアノを使った派手なパフォーマンスを一人で繰り広げ、赤いライトの中で幕がおりる。

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                    2005/06/29 Text by NEL.