GRAND HOTEL. THE MUSICAL
『グランドホテル』
ザ・ミュージカル

****STORY
注:白文字の曲名はプログラムを参照しておりますが、他の文章すなわち歌詞やストーリー解説、キャストの台詞などはすべて、NELが自分の記憶から書き起こしているものです。もちろん録音も録画もして無いですし、記憶が正確でないところも多いと思います。あきらかにマズい間違いがありましたら、ご指摘をお願いいたします。
またNELの主観によるレポートですので視点は偏っておりますし、わざと意味不明っぽく書いている部分もあります;が、なんとなくフィーリングってことで…舞台の雰囲気を思い浮かべていただければ幸いです。

 

開幕前(音合わせ)
指定席に着きまず目に入るのは、群青とマリンブルーの壁や柱に金の装飾を施したホテルのロビーのセット。中央奥には3枚扉の回転ドアがあり、外界との唯一の接点となっている。
回転ドアの両脇の壁に、ホテル内の別の場所へと通じる扉が1枚ずつ。
さらに左右脇に、薔薇紋様の金の手すりを備えた階段が、ホールを包むような格好で張り出している。階段は踊り場に続き、2階のバルコニーへと繋がる。2階の正面奥にはオーケストラの面々がスタンバイしている。
数カ所から漏れるオレンジ色の照明が金の装飾を光らせ、華麗かつ静かで重々しい雰囲気を漂わせている。
オーケストラの音合わせがはじまる。
ひとしきりのざわめきの後、2階のカミテから、杖をつき片足をひきずったドクター・オッテルンシュラーグが、医療カバンを携えて現れる。同時に2階のシモテからはオーケストラの指揮者が現れ、ふたりは向き合って一礼し、ドクターは舞台へと向かって階段を下りはじめる。
彼が階段の途中でふりかえり杖を振ると、鐘の音と共に『グランドホテル』の朝が始まる。

The Grand Parade(グランド・パレード)
1928年、ドイツ・ベルリン。最高級の品格を誇る『グランドホテル』の朝。
電話交換手の声、ドアマンは車を呼び、宿泊客はフロントに様々な注文。遠くから聞こえるそれらの音を背を向けて、ドクターは上着を脱いでシャツをめくり、みずからの腕にモルヒネの注射を打つ。
すると、優雅な音楽が聞こえてくる…男女のペアが舞台に現れ、幻想的に踊る。ドクターは悦楽の表情で歌う。
「天鵞絨のロビーに香水漂い シャンデリア輝く クリスタルの煌めき
人は来て 人は去る それが人生
ようこそ、古きベルリン。ようこそ、ザ・グランド・ホテル。」
狂言回しでもある彼は、回転扉から入ってくる人々を眺め、ひとりひとりに注釈を加えていく。
エリザベータ・グルーシンスカヤは世界的なバレリーナ。現在、8回目の引退公演中。
ラファエラ、彼女の無二の親友。
フェリックス・アマデウス・ベンヴェヌート・フォン・ガイゲルン男爵。ちっぽけな称号に莫大な借金。
ヘルマン・プライジング、株主たちに責められる実業家。
ミス・フリーダ・フレムはタイピスト。…というにはまだまだか。(フレムちゃん、ファッションモデルのような足取りで舞台センターに進み出、カッと脚を上げてコートを翻しスカートをふとももの付け根までめくって見せる。うわあって感じです@@)
そしてオットー・クリンゲライン。人生を模索中。

Some Have, Some Have Not(持つ者、持たざる者)
ホテルの洗い場で働く労働者たちが、客席から舞台に駆け登ってあらあらしく歌う。「なぜ!あの人たちは一日100万マルク使える。同じ一日で俺達はやっと食うだけの金をかせぐのに」
モップを持った掃除婦も声をはりあげる。「ああ!掃除なんかやめて一度泊まってみたい、ロイヤルスイートルーム」

As It Should Be(あるべき人生)
労働者らの歌と重なるように、男爵がバルコニーで自分の人生を歌う。「危険なゲームを続けるための勇気がほしい、お金もほしい。トランクを積み重ねたような、いつ崩れるかわからない綱渡りさ…本当に欲しいのは愛、真実の愛」
ベルボーイやドアマン、電話交換手たちも登場する。ほかの客たちもふたたび登場し、全員が舞台に並ぶ。
それぞれの歌声がホテルのロビーに重なる、重厚なオープニング。

*********

ホテルのフロントマン、エリック・リットナウアーに外から電話がかかってくる。妻が出産の為入院している病院からだ。容態は悪そうだが、エリックは職場を離れることができない。
回転ドアを通って入ってきたのは、今夜ベルリンで公演を行うバレリーナ・グルーシンスカヤ。登場するなり彼女は「もう踊れない」と主張するが、興行主とマネージャーになだめられ、ホテルスタッフからの歓迎を受けて機嫌を直す。
ホテルに長期滞在中のカイゲルン男爵は、グルーシンスカヤとすれ違い、視線を交わす。彼は美しい女性には目がないのだ。だがホテル支配人に言われるまでもなく、宿泊費の支払いは7ヶ月ぶんも滞っている。それでも誰も彼を疑わないのは、彼の貴族らしい振舞いと、父親の形見というダイヤ入りのシガレットケースが身分を保証しているからだ。
そんな男爵に、ホテルの制服を着た運転手が銜え煙草で話し掛ける。「ボス」に金を返さなければ酷い目に会うぞと脅されて電話を受け取り、ヤクザと交渉する男爵。借金は必ず返すから、あと5000マルク貸してくれないかと。「必ず儲かる株があるんです!」
階段の踊り場にはラファエラが登場。グルーシンスカヤの代理としてカルティエのメゾンに電話をかけている。こちらは手持ちのネックレスを処分したいという相談だ。
舞台の下手側では、脚のきれいな若い女が電話している。「もしもし?あたし、フリーダ。グランドホテルからかけてるの。秘書の仕事で来てるのよ。」どうやら電話の相手は彼氏だ。彼女はいつか自分がハリウッドスターになる時の為に、これからは「ただのフレムシェン」を名乗ろうと思う、という。「だって、ガルボはガルボで、グレタじゃないもの!」そして彼に「お金が要るの、生理がないのよ」と打ち明ける。(立って電話してる時も、脚の綺麗さを見せつけるように踵を浮かせてポーズしています。)
実業家・プライジングは、ボストンから届く筈の電報を待ちながら、愛娘と電話で話し、童話を読んでやる。「黒いカラスが、カア〜カア〜……」
舞台の上手側では、オットー・クリンゲラインが医者を相手に電話している。どうやら彼は田舎の病院を抜け出して勝手にベルリンにやってきたらしい。そして都会での診断もやはり絶望的なものだった。彼はもう田舎に帰る気はないと医者に告げる。これからの自分の住所は、しばらくの間…
「グランドホテル・ベルリン!」
受話器を持った人々が声を揃える。
それぞれの交渉があるいは上手くいき、あるいは決裂したようだ。全員がいっせいに受話器を置き、退場する。

At the Grand Hotel(グランドホテルで)
エリックは、苦しんでいる妻のために痛み止めをもらえないかと、ドクターに話しかける。がモルヒネは妊婦には使えないのだ。
今日チェックアウトするかもしれないというドクターに「昨日もそうおっしゃいました」というドアマン。
そこに、貧しい格好のオットー・クリンゲラインが汚いトランクを抱えて回転ドアから入ってくる。それを見た支配人はやんわりと追い出そうとするが、オットーは「予約してあるんだ!」と主張し、興奮して心臓の発作を起こす。
ドクターが近づいて話を聞いてやる。
「予約してあっても部屋があるとは限らない」という支配人に「グランドホテルはユダヤ人を泊めないのか」と食い下がるオットー。彼は、失った人生を取戻したいがために、病院を抜け出し列車に乗ってここベルリンに来たのだ。
ドクターは「もう一晩、泊まることにする」と宣言。
それらを見ていたガイゲルン男爵は、仲裁を申し出る。

Table with a View(窓辺のテーブル)
男爵のお陰で、オットーのための空室が用意された。
オットーは喜び、男爵を親友と呼ばせてもらうことにする。
部屋のカギを握りしめて、このホテルに泊まれる幸せをかみしめるオットー。「この瞬間を生きよう、ここグランド・ホテルで」 

Maybe My Baby Loves Me(たぶん彼女は愛してる)
舞台はホテルの地下のアメリカン・バーに移る。
フレムシェンがタイプライターを持って登場、ボックスからフロントに電話している。彼女は臨時タイピストとしてグランドホテルに呼ばれたものの、雇い主の社長とまだ会っていないのだ。
バーの陽気なパフォーマー『ジミーズ』たちと意気投合し、最新流行の「ホットなジャズ」を楽しむフレムシェン。(オケのメンバーが3人、舞台に下りてきて演奏します。アンサンブルさんたちとの絡みも小気味良く。粋なダンスと歌を堪能できます^^)

Fire and ice(炎と氷)
グルーシンスカヤはチュチュに着替え、今夜の舞台の為にストレッチに励んでいる。しかし彼女の踊りが「炎と氷のようだ」と称えられたのは遥か過去のこと。心は依然、踊るべきかやめるべきかを迷っている。
結局、興行主とマネージャに説得されて舞台に立つことにするグルーシンスカヤ。だが「チケットは完売」とは実は真っ赤な嘘であり、興行主サンダーは陰で「バレエはもう古い、これからはジャズとヌードだ!」と叫んでいる。
付き人のラファエラがネックレスを持ってグルーシンスカヤのもとにやってくる。それはかつてセルゲイ王子から贈られた思い出の品。これだけは売らないでおきましょうとラファエラは言うが、そうでもしなければカンパニーのメンバーに給料すら払えないことを、グルーシンスカヤは知っている。ラファエラはグルーシンスカヤのために、自分の貯金を使ってほしいと申し出るが断られる。

Twenty-Two years(22年間)
実はラファエラの貯金はわずかどころではないのだ。22年の間グルーシンスカヤの側で仕えつづけ、収入はすべて投資し増やしてきた。すべては、彼女への愛のため。

Villa on a Hill(丘の上の別荘)
いつかグルーシンスカヤが、自分以外に誰も頼れる人がいなくなったら…丘の上に小さな家を買って暮らそう。港を散歩する貴女はなんて素敵でしょう。ラファエラは、告白できない愛情を歌に込める。

Girl in the Mirror(鏡の中のあの娘になりたい)
まだプライジング社長と会えないでいるフレムシェン。そこにガイゲルン男爵が声をかける。彼が映画プロデューサーではないのは残念だが、「『黄色い館』で5時に会おう」と誘われて悪い気はしない。
私のどこがお気に召したのかしら? 夢見るフレムシェンは歌う。ハリウッドに行って映画スターになりたいの!と。でもいまの現実はフリードリヒ・ストリートのお湯の出ないアパート、寝るのはソファ、なんの希望もない。鏡に映る金髪の娘になりたい。ハリウッドに行きたい、行きたい、行かなきゃ!(とってもキュートな曲。表情豊かに踊りながら歌います。最後はアンサンブルさんたちにリフトしてもらってポーズ)

The Crooked Path(歪んだ道)
プライジング社長と弁護士は、株主総会を前に追い詰められている。ボストンとの合併がうまくいかなければ失脚だ。弁護士は嘘をつくよう勧める。が、プライジングは今迄正直にやってきたつもりなので抵抗がある。フレムシェンがタイプライターを持ってやってくるが、後で呼ぶからと追い払う。
そして待ちかねたボストンからの電報が届く。内容は…合併はナシ。倒産だ。プライジングは、娘に読んでやった童話を思い出す。…分かれ道でカラスに道を聞く、答えはまるで悪魔の囁きだ。「この歪んだ道を行け!まっすぐはもう流行らない。」カア〜カア〜。

As It Should Be(あるべき人生)
マフィアの手下でもあるホテル付の運転手は、ふたたび男爵を脅迫する。見事なネックレスを持った客がいるから盗んでこいと。やるしかないのか…

Who couldn't Dance with You?(あなたとなら誰でも踊れる)
ホテル内のダンスルーム『黄色い館』。何組かのカップルが優雅に踊っている。その中にフレムシェンとガイゲルン男爵の姿もある。
そこへ場違いな大声をあげながら、オットーが駆け込んでくる。彼はチェックインした自分の部屋の素晴らしさに大感激してしまい、親友に報告せずにいられないのだ。フレムシェンは、オットーが彼を「男爵」と呼ぶのを聞いて目を輝かせる。ふたたび男爵と踊りながらウットリのフレムシェン。
一方、さみしく一人バーの椅子に座っているオットーを見て、男爵はフレムシェンに「彼と踊ってあげてくれないか」と頼む。オットーが病気である事などを知ったフレムシェンは快くOKし、男爵はニュヨークの株式市場をチェックするために去ってゆく。
緊張するオットーを誘ってダンスの手ほどきをするフレムシェン。内心は男爵のことが気になるのだが、オットーと手をとりあって踊るうちに心から楽しくなってくるふたり。「ずっと夢にみてた」「わたしも」「君は女神」「宇宙へいくのよ」「僕はひとりじゃない」…(二人がくるくる踊りながら掛け合いで歌う。小堺さんとりかさんの息もぴったり。ここのシーンとても素敵です)
丁度イイ感じのところに、プライジング社長がやってきてフレムシェンに仕事させようとする。
かつて会計係だったオットーは、自分の上司であったプライジングに挨拶するが、まったく相手にされない。あの時もあの時も、大儲けさせてやったのに!給料を上げてくれなかった事と私の顔を覚えていなかった事には感謝しますよバカヤロウ! 思いきり怒鳴った後で、我に返るオットー。
貴方クビになっちゃうの?と心配するフレムシェンに、自分から辞めたんだと答える。逆に君の仕事を邪魔しちゃったんじゃないかな?「大丈夫、私働かなくたっていいのよ。だって…男爵夫人だもの!」(オットーに心配させない為に言ってるようでもあり、ホンキで結婚できると思ってるようでもあり…/笑)ふたりは踊り続ける。

Merger is On(合併問題)
オットーと別れ、フレムシェンは上階の会議室に向かう。プライジング社長が株主たちに囲まれている。動議が読み上げられる。「ボストンとの合併もなく、多額の負債を生じさせたプライジング社長を、更迭する」
プライジングは「アメリカから電報を受け取り、合併は成立」と嘘をつく。この歪んだ道をゆけ、まっすぐにはもう戻れない。カア〜カア〜(このときフレムシェンは台詞はありませんが、終始とても冷たい目でプライジングを見下ろしています。音楽に合わせ何かを暗示するように書類を振って、去っていきます)

Fire and ice(炎と氷)
ホテル内の別の場所では、男爵がオットーに株式市場のデータを見せて「買ってみませんか」と勧めている。自分が株を買うなんて!とワクワクするオットー。
別の場所で、例の運転手が男爵に話しかける。金を返せない男爵は頭に拳銃をつきつけられ、「今夜、バレリーナが舞台に立っている間にネックレスを盗んでこい」と命令される。

No Encore(アンコールは無し)
バレリーナの舞台は、さんざんな出来だった。
1幕が終わった時点で、拍手もなし、アンコールもなし。グルーシンスカヤは深く傷付き、2幕は代役にやらせて自分はホテルに帰ると叫ぶ。サンダーとマネージャー、ラファエラは収拾のために奔走する。

Love can't Happen(恋なんて起こらない)
ひとりホテルの自室に戻ったグルーシンスカヤは、若い男が部屋に潜んでいるのに気付き驚愕する。彼はグルーシンスカヤのネックレスを盗みにきたのだが、咄嗟に「あなたの大ファンなんです」と言い訳する。しかし彼女の思いがけない美しさと向き合い、話をしているうちに、嘘のはずの恋が本物になってゆく。グルーシンスカヤのほうも、男を怪しみながらも、甘い言葉に溶かされるように恋に落ちてゆく。
灯りが消える。

What You Need(あなたに必要なもの)
しんと静まったグランドホテルの夜。
プライジング社長はフレムシェンに書類をタイプさせながら、自分はボストンへ行く、ついては身の回りの世話をしてくれる女が必要だ、と持ちかける。はやい話が愛人になれということだ。「ボストンは、ハリウッドに近いですか?」「電車で行けるんじゃないかな。」考え込むフレムシェン。(計算高いというよりはちょっとオバカ?そこが可愛いんですが。)

フロント係のエリックが、外出から戻ってくる。妻の見舞いに行っていたのだ。そこを支配人に見咎められ「おまえの妻なんかより、仕事だ!」と怒られる。

いっぽうラファエラは、グルーシンスカヤのトウシューズを抱きしめ、彼女への愛を歌う。

Bonjour Amour(ボンジュール・アムール)
夜は終わり、朝が訪れる。
男爵はグルーシンスカヤに正体を明かし、ネックレスを盗みにきたことを告白する。グルーシンスカヤは男爵の真実の愛を受け止め、自分と一緒にウィーンへ行ってほしいと願う。
「なんとかなるでしょう」と、男爵は愛する人と共にゆく約束をする。明日の朝、駅で、赤い薔薇の花束を持って待っている…と。
彼が去ったあと、グルーシンスカヤは少女のようにときめいている。わたくし、踊るわ! なんて素敵な朝、ボンジュール・アムール!

The Grand Charleston(グランド・チャールストン)
2日目も夕方になり(きっと昼間は寝てるのでしょうね、この人達)、ふたたび『黄色い館』。昨日と違うドレスに身を包んだフレムシェン、ドキドキしながら男爵を待っている。タキシード姿で現れた男爵は別人のように陽気でハイテンションだ。なぜなら、一晩で恋をしたから。(フレムちゃん「まあっ、私に?」という顔が可笑しい)相手は年上、フレムシェンとはまるで逆のタイプなのだが。(呆然〜ガッカリ)
男爵は嬉し気に「可愛いフレムシェン」と呼び掛けるが「可愛いなんて気分じゃないわ」「じゃ、綺麗なフレムシェン。チャールストンは如何?」「それって残念賞?まあいいワ!」
ふたりが向き合って踊りはじめたところに、オットーがコートの胸元を押さえてヨロヨロとやってくる。きのう株を買うように勧めたのが、ダメだったのか?と謝る男爵。が、事実は逆で株は高騰し、オットーは一晩で年収以上の金額を稼ぐことができたのだ。そのお金でオットーはタキシードを新調、男爵もフレムシェンも一緒に手をとりあって大喜び。
そこに不粋なプライジング社長が、フレムシェンを呼びにくる。彼女は男爵夫人の夢破れた以上「今の仕事を大事にしなくちゃ」と、ふたりと別れて社長のもとへ。彼の意図はわかっている。「最初に1000マルクください。高すぎるかしら?…あとお洋服代も」そのかわりに、今夜プライジング社長の部屋に行かなければならない…(今のお金にすると、1000マルク=200万円だそうです。安すぎるだろう!と思いますが、それ程フレムシェンは世間知らずで純情ってことなのでしょう)

we'll Take a Glass Together(共にグラスを)
オットーは親友の男爵とともに、シャンパンで乾杯したい! 一番高いやつで! とおおはしゃぎ。それを横目で見ながら、フレムシェンは淋しく回転ドアから出ていく。
陽気なチャールストンに乗って、ホテルの客や従業員も一緒になって大宴会が繰り広げられる。
明日のことは考えない!なんとかなるさ!この人生を楽しもう!!
華やかで楽しいチャールストンのシーン。

I Waltz Alone(ひとりのワルツ)
夜は更けてゆく。
ホールの客達は黒い影になり、ドクターは物陰でモルヒネを打つ。

酔っぱらった上に踊りすぎたのだろう、オットーはとつぜん心臓の発作を起こし、胸をおさえて屈みこむ拍子にサイフを落す。男爵はそれを拾いオットーに渡そうとするが、誰にも目撃されていないことに気付き、自分の胸ポケットに入れてしまう。そして何食わぬ顔でオットーに駆け寄る。

回転ドアから、コートを羽織り小さなトランクを持ったフレムシェンが入って来る。プライジング社長が彼女を迎え、ふたりは部屋への階段を上っていく。

オットーは、男爵とエリックに介抱されて体調を取戻す。「死ぬのが怖くはないのですか」と聞く男爵に彼は「死ぬのは怖くない。怖いのは『死』です」と答える。大事なのは、一文無しで死なないことです。だから…とサイフを確認しようとしたオットーは、それを失ったことに気付く。なんてことだ!サイフがない!

プライジングは「私に優しくしてくれるんだろう?」とフレムシェンに迫る。「君の、脱ぐところが見たい」

男爵は、オットーの悲愴なまでのうろたえぶりを見て「私に預けたでしょう」と胸ポケットからサイフを取り出して渡す。一瞬、男爵を疑うようにみつめるオットーだが、すぐ納得したように「そうでした」と受け取る。

プライジングに「脱ぎなさい」と命じられ、ハイヒールとストッキングを脱ぐフレムシェン。さらに「踊ってくれ」と言われ、社長の前で舞う。(マネキン人形のように腕を上げたり下げたりしてポーズをとる。暗がりの中でシルエットが綺麗。)

ドクターはすべてを見ている。いままでも今も。
ひとびとの葛藤を、このホテルに漂う亡霊たちのダンスを、ドクターはみつめつづけている。
どこからか聞こえる、物悲しいワルツ。ドクターは独り踊る。

オットーはサイフをひろげ、札束を取り出して男爵に押し付ける。「株で儲けたぶんは、折半にしましょう!」
男爵は、父の形見である大事なシガレットケースをオットーに渡して言う。お金は必ず返すから、これを担保に。きっと戻ってきます。「どこかへお出かけで?」「美しい、ウィーンへ!」
愛と友情を胸に歩き出そうとする男爵を、運転手が呼び止め、オットーに貰った札束は取り上げられる。そして今すぐプライジングの部屋に行き、サイフを取ってこい。ウィーン以前に借金を返さなければ命はないと脅される。

社長は秘書に要求する。「脱ぐんだ」「嫌。寒いわ」「脱ぎなさい」女は下着をおろして社長に渡す。「私の膝に座るんだ」

ふたりの背後で、男爵はプライジングの上着からサイフを抜き取り、自分の内ポケットに入れる。

「私、間違っていました」フレムシェンは毅然としてたちあがる。「やっぱり帰ります!」「ダメだ、これは仕事だ!」

社長がフレムシェンに乱暴しようとするのを見て、男爵は咄嗟に叫ぶ。「フレムシェン!荷物をまとめて帰るんだ」「きさま、ここで何をしている!そうか2人はグルだな、私がこの女にかまけている間に、金を盗んだな!!」「彼はそんな事しないわ!だって男爵だもの」

暗闇の中で男ふたりが揉み合い、プライジングは男爵からピストルを奪う。銃声が響く

フレムシェンにスポットが当たる
「助けて……たすけて……だれか、お医者さんを!!」

Roses at the Station(ステーションの薔薇)
ドクターの独白。
「彼は心臓の真中を打ち抜かれた。稀にラッキーショットと呼ばれるが、倒れている青年にとってそれが幸運であるとは、思えなかった。」

赤い薔薇のセットを前に、男爵が立って歌う。
「エリザベータ僕はここだよ 薔薇を抱いて待ってる エリザベータ僕はここだよ…」
「エリザベータ僕はここだよ なぜ奴はサイフが なぜあんなに大切 なぜ引金をひいた なぜ…」
「エリザベータ僕はここだよ 僕はひとりここだよ 薔薇を抱いて待つステーション…」
血のように赤い花弁が彼の上に降り注ぐ。やがて意識を失ってゆく男爵、銃声と共に照明が消える。

愛と死のボレロ
ドクターには見える。
「愛」と「死」が再び手を取り合い、契りを交わすのが…
男女のペアが現れ、荘厳なボレロを踊る。

How Can I Tell Her?(なんて言ったら)
夜が明けようとしている。
ラファエラは、男爵の死という悲しい真実を、愛しいグルーシンスカヤにどう伝えたらいいのかと悩んでいる。
プライジングは手錠をかけられ、警官に連行されようとしている。
弁護士のズィノヴィッツは「彼は泥棒から身を守ろうとしただけです」と証言している。
オットーとフレムシェンは、自分達に優しくしてくれた男爵の事を思い出している。そして、プライジングは本当に嫌なやつだった。オットーは「あんな男となぜ一緒に行こうなんて気になったんです」とフレムシェンに言う。「だって1000マルクくれるって言ったんだもの。人生をやりなおすには充分かと思ったの…」「お金がそれほど大事なものとは思いませんでした、こんな事になるまでは」「こんな事にもなるわよ!仕事もないし…」
彼女はまた新たな道をさがして、生きていかなくてはならない。

Final Scene
そして三度、グランドホテルに朝がくる。
電話交換手の応答、洗濯物を運んでいく掃除婦、車を呼ぶ声。
フロント係のエリックが電話を取ると、彼の息子が無事に産まれたという妻の言葉。大喜びのエリック。受話器を持って歌う。
「人生は大きくもなる 人生は小さくもなる あなた次第で…」

グルーシンスカヤは、男爵は駅で待っています、というラファエラの言葉に促され、希望に満ちてホテルを後にする。興行主サンダーとマネージャーも一緒だ。

オットーもトランクを持って下りてくる。ドクターは声をかける。
「お発ちかね、クリンゲライン。きみが人生をみつけた、このホテルから」「はい」
そこにフレムシェンが戻って来る。ホテルに忘れたタイプライターを取りにきたのだ。オットーは彼女に、パリに行くことにしたのだと告げる。「ご一緒しませんかと言いたいところだが、あいにく私は死にかけてる…」フレムシェンは微笑んで、自分の唇に人さし指を当て、その指をオットーの頬に当てる。「みんなそうよ、オットー。」

プライジングは警官にひかれて出てゆく。「裏口はないのかね?」弁護士が後ろに続く。

フレムシェンがタイプライターを持って下りてくる。オットーは、ドクターが止めるのもきかず、彼女をパリへの旅に誘う。無理よと言うフレムシェンだが、オットーはどうしても一緒に行こうと言う。ついにフレムシェンは告白する。「オットー、わたしね…妊娠してるみたいなの」「素晴らしいじゃないか、フレムシェン! 私はね、産まれたての赤ん坊をいうのを見たことがないんだ。いっしょに来てくれるね?」「オットー。………断れないじゃないの……」
フレムシェンのタイプライターを、ドクターが受け取る。
エリックが彼らに駆け寄り、息子が産まれたことを告げる。
「みろ!! ここにも人生があったじゃないか!」オットーは叫ぶ。そして、ガイゲルン男爵から預かった形見のシガレットケースを懐から取り出し、エリックに差し出す。「これを、友達の男爵から」エリックは感極まって受け取る。「おめでとうございます!あなたも」フレムシェンの目にも涙があふれる。
そしてフロント係は大きな声で言う、「クリンゲライン様にタクシーを!」
フレムシェンと、ホテルのスタッフも声を揃える。「クリンゲライン様にタクシーを!!」
オットーは人としての誇りに顔を輝かせ、フレムシェンと腕を組んでホテルを後にする。

人は来て、人は去る。ひとりは監獄へ、ひとりはパリへ。

ドクターはゆっくりとロビーを横切る。
オープニングと同じように、労働者たちが荒々しく歌っている。彼らは数年後にナチスに支配されるであろうベルリンの暗い陰を象徴している。
それでも、なにも変わらない。人は来て、人は去る。
グランドホテル・ベルリン。何も変わらない。
「もう一晩、泊まることにしよう。」

The Grand Parade(グランド・パレード)
オープニングでは回転ドアから入ってきてホテル内へ消えていった人物達が、このエンディングでは壁から出て来て回転ドアを通り抜け、消えていく。

The Grand Waltz(グランド・ワルツ)
キャストが順番に登場、客席に挨拶をする華やかなフィナーレ。
オーケストラの演奏に乗り、男爵はグルーシンスカヤと、オットーはフレムシェンと、エリックは支配人と(汗)、ラファエラはマネージャーと、他の男女もそれぞれ組んでワルツを踊り、にこやかに散ってゆく。

**********

最後迄読んでいただき、ありがとうございました。
2006.01.25 Text by NEL


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